私たちは、お昼時になればお腹が空いて食事をしますよね。
「そこまでお腹は空いてないし、義務じゃないけど、3時のおやつをつい食べちゃう」なんて経験ありませんか?
「食後のデザートは欠かせない!」「甘いものは別腹!」なんて人もいるでしょう。
人間にとって、生きていく上で重要な欲求の1つに「食欲」があります。
しかしこの食欲が私たちを悩ませているんですよね。
つい食べすぎて太ってしまったり、別腹で余計なカロリーとってしまったり…。
お腹が空きすぎるとドカ食いしてしまう、早食いがやめられないなんてことも。
逆に、夏バテや体調不良で食欲不振になると、お腹は空かず、どんどん体力が落ちてしまいます。
もう食欲に振り回されるのはうんざりですよね。
いったい食欲って何なのか?気になる食欲のメカニズムについて解説します!
食欲のメカニズムとは
食欲とは「あれが食べたい!」と思う気持ちのことです。
つまり食べ物を口にしたいという欲求です。
食欲を抑えるのは難しいですよね。
ここではなぜ食欲が湧くのか、そのメカニズムについて解説します。
食欲のメカニズム
食欲は脳の視床下部にある摂食中枢と満腹中枢によってコントロールされています。
ヒトの食欲は明らかに脳の問題であることがわかってきている。
「食欲」は究極的には脳がつくっているものである。
脳が食欲を生み出すことによって私たちは空腹を感じているのだ。
書籍『食欲の科学~食べるだけでは満たされない絶妙で皮肉なしくみ』
櫻井 武 (著)
出版社: 講談社 (2012年10月初版)
例えば、お腹が空くと、体内のエネルギーが消費されて血糖値が低下します。
お腹が空いて、普段なら怒らないようなことでもイライラして不機嫌になるのは、体内の血糖値が下がりすぎて脳にエネルギーが回らなくなるから。
そこでエネルギーを作るため、体内に蓄えられていた脂肪を分解します。
この脂肪を分解するときに遊離脂肪酸というものができ、遊離脂肪酸が血液中に多くなると、この信号を摂食中枢がキャッチ。
エネルギーが欲しいため、空腹感としてエネルギー不足を伝えるんですね。
一方で、お腹が満たされると、エネルギーが摂取されて血糖値が上昇します。
食事によって体内に吸収された炭水化物がブドウ糖に分解され、血液中に流れ込みます。(血液中のブドウ糖濃度=血糖値)
ブドウ糖の濃度が上がると、この信号を満腹中枢がキャッチ。
血糖値が空腹時の2倍以上になると、満腹感としてエネルギーの摂取完了を伝えます。
つまり、「お腹が空いたな」と空腹感があれば摂食中枢、「お腹いっぱいだな」と満腹感があれば満腹中枢がそれぞれ働いています。
また、満腹中枢が「お腹いっぱいだ」と感じ、食欲を抑えるまで、食べ始めてから15〜20分ほどかかります。
早食いで食べすぎてしまう人は、血糖値が上がり、満腹中枢が満腹の信号を送る前にたくさん食べてしまうのです。
時間をかけてゆっくり食べることで食べ過ぎ防止につながるでしょう。
「生理的食欲」と「感覚的食欲」別腹は本当に存在する!
そして、食欲には「生理的な食欲」と「感覚的な食欲」があることを知っていますか?
「生理的食欲」とは、血糖値の低下や遊離脂肪酸の血中濃度上昇、ホルモンの作用によって起こる食欲です。
つまり理屈ではなく本能的、わかりやすくいえば、「本当の食欲」です。
「感覚的な食欲」とは、情報によって起こる食欲です。
「感覚的な食欲」の例は以下の通りです。
・肉を焼く「ジュー」の音や香りでお腹が空く
・美味しそうなケーキを見ると、甘いものが食べたくなる
・テレビのラーメン特集を見て、ラーメンが食べたくなる
・料理中の匂いでますますお腹が空く など
このような経験はありませんか?
食欲は、食べ物の味や見た目、料理中に聞こえる音、香り、食感などに影響を受けます。
つまり、本当にお腹が空いているわけでなく情報によってお腹が空くんですね。
そして過去の食体験の記憶や知識などを通して、美味しいや不味いなどの判断をします。
例えば、デザートは別腹なんてよくいいますよね。
お腹がいっぱいでもデザートを食べられるのは「デザートは美味しい」とわかっているから。
日本テレビの「所さんの目がテン!」で実験されました。
その内容が「知識の宝庫!目がテン!ライブラリー」に記載されてあります。
https://www.ntv.co.jp/megaten/archive/library/date/00/03/0326.html
脳が美味しいものと判断すれば、パンパンだった胃に余裕ができます。
別腹は本当に存在し、これは本当にお腹が空いているのではなく、錯覚のようなもの。
つまり、記憶や知識が中枢を刺激して食欲をコントロールする「偽の食欲」です。
お腹が空いてなくても食べられる理由には偽の食欲があるからなんですね。
食欲のキーワード『レプチン』
タイトルで食欲のキーワードは「レプチン」と述べました。
それは、レプチンとは食欲をコントロールするホルモンだからです。
ここでは、レプチンの働きについて詳しく解説します。
レプチンの働き
レプチンとは食欲をコントロールするホルモンです。
食欲をコントロールする満腹中枢に信号を送るホルモンはレプチンであり、一方で摂食中枢に信号を送るホルモンはグレリンといいます。
そしてレプチンは脂肪細胞、グレリンは胃から分泌されます。
「レプチン」
→体の脂肪細胞から分泌されるホルモンです。食後に分泌されたあと、脳の視床下部の満腹中枢が刺激されて満腹感を感じます。
このホルモンは体脂肪の量と比例しており、体脂肪が多いほど「レプチン」が分泌されます。
「グレリン」
→胃から分泌されるホルモンです。空腹時に分泌されたあと、脳の視床下部の食欲中枢が刺激されて食欲が増します。
余談ですが、自分が好きな食べ物を目にした時もグレリンが分泌されます。
「お腹いっぱいだけど、デザートは別腹だよ」
という経験ありませんか?これはお腹いっぱいでも胃からグレリンが分泌されるからです。
医療法人ハートアンドオンリー福岡天神内視鏡クリニック https://www.fukuoka-tenjin-naishikyo.com/blogpage/2023/10/30/13550/
レプチンの働きは、血糖値が上昇するにあたって脂肪細胞から分泌され、満腹中枢に信号を送り、食欲を抑えます。
食欲を抑えることで、エネルギーの過剰摂取を抑え、余計なエネルギーの蓄積を防ぐことができるのです。
また、レプチンは自律神経の交感神経を活性化させ、エネルギー消費を促します。
つまりレプチンの働きは、食欲を抑えることとエネルギー代謝の2つを同時に行うこと。
レプチンが多ければ多いほど食欲を抑えることができ、同時にエネルギー代謝でカロリーを消費できます。
そんなレプチンを妨げる要因は、夜遅くに高エネルギー食を食べることや睡眠不足にあります。
夜は日中に比べてエネルギー消費が少ないため、脂肪を蓄積させてしまいます。
また睡眠不足ではレプチン分泌が低下し、食欲が増すグレリン分泌が上昇してしまうのです。
エネルギーの過剰摂取となり脂肪の蓄積の原因になるので、睡眠時間を確保するように心がけましょう。
先ほども述べましたが、レプチンは脂肪細胞から作られます。
脂肪細胞の数は、基本的に増減することはありません。
痩せたり太ったりするのは、脂肪細胞の大きさが関係しているのです。
そして脂肪細胞には、エネルギー源となる中性脂肪が蓄えられています。
補足:中性脂肪とは、血液中にある脂肪の1つで、生命維持に欠かせないエネルギー源。
活動するエネルギーとして使われず余ったエネルギーは、体脂肪(皮下脂肪と内臓脂肪の総称)として蓄えられ、結果的に肥満になります。
そして体脂肪の大部分は中性脂肪です。
食生活においてエネルギーの過剰摂取や脂肪の多い食事、運動不足が、中性脂肪を蓄積させてしまう大きな要因です。
中性脂肪が増えることで脂肪細胞が大きくなり太るのです。
そしてレプチンは体脂肪(皮下脂肪と内臓脂肪の総称)の量を脳に伝える役割があります。
大きくなった脂肪細胞からは、レプチンの分泌量がさらに増加します。
つまり、レプチンは体脂肪に比例していて、脂肪が多いほどレプチンの分泌量は増えるのです。
このことからレプチンは一定以上の脂肪を蓄積せず、適正な体重を維持する役割があると考えられています。
しかし、ここで疑問が生じますよね。
肥満気味の人は体脂肪が多いはずだからレプチンの分泌量も多いはずです。
それなのになぜ食欲が抑えられて痩せないんでしょうか?
それは、肥満気味の多くの人はレプチンが効きにくくなる「レプチン抵抗性」となっているからです。
いったい「レプチン抵抗性」とはなんなのでしょうか。
レプチン抵抗性
レプチン抵抗性とは、レプチン受容体が機能しなくなり、レプチンが作用しなくなることをいいます。
食べ過ぎると脂肪が体にたまり肥満になる原因の1つには、レプチンというホルモンの作用が不足するからです。
本来であれば、脂肪細胞から分泌されたレプチンがレプチン受容体に結合し、食欲を抑えます。
レプチンが作用してれば、エネルギーの過剰摂取にならないため、脂肪細胞に中性脂肪は蓄えられず、一定の体重を維持できますよね。
しかし肥満気味の人は、レプチンが大量に分泌され続けるため、レプチン受容体の反応が鈍くなり、レプチンが作用しなくなります。
そしてレプチンが作用しないと、満腹中枢への信号がうまく届かないのです。
その結果、レプチンの働きである食欲を抑えることやエネルギーを消費することが十分に果たせなくなります。
レプチンが多すぎて効かない状態になっているんですね。
レプチンの分泌量が多すぎてレプチン抵抗性が起き、その状態が続けば、食欲は抑えられず、エネルギー消費は減り、肥満につながります。
そして食べ過ぎによって起こる肥満は、2型糖尿病やメタボリックシンドロームなどの危険性が高まるので、エネルギーの過剰摂取は気をつけたいですね。
レプチン抵抗性の要因とは
2017年9月14日の基礎生物学研究所のプレスリリースにて、レプチンの抵抗性の要因を発見したと記載がありました。
基礎生物学研究所・統合神経生物学研究部門の新谷隆史准教授、東覚大学院生、及び野田昌晴教授らは、PTPRJという酵素分子がレプチンの受容体の活性化を抑制していることを発見しました。
肥満にともなって摂食中枢でPTPRJの発現が増えること、そのためにレプチンが効きにくくなり、これがレプチン抵抗性の要因となっていることを明らかにしました。
https://www.nibb.ac.jp/press/2017/09/14
図 レプチン抵抗性形成のメカニズム
PTPRJはレプチン受容体に働いて、レプチンの働きを抑制しています。肥満すると摂食中枢でPTPRJの発現が増えます。この結果、レプチンが多くてもレプチンが効きにくくなり、これがレプチン抵抗性の要因となっていると考えられます。
引用:自然科学研究機構・基礎生物学研究所
つまり肥満の人は、PTPRJという酵素分子が多くあることでレプチン受容体が機能しなくなるのです。
PTPRJという酵素分子の働きを妨げれば、レプチン抵抗性は改善されそうですね。
PTPRJの働きを妨げる薬が開発されることを期待します。
まとめ
レプチンとは、食欲を抑えることとエネルギー消費を促してくれるホルモンです。
主な2つの働きによって、体脂肪が蓄積しないようにコントロールします。
レプチンが正常な働きをするには、体脂肪をためすぎないこと。
ゆっくり時間をかけて食べたり、本当にお腹が空いているか考えて偽の食欲を抑えたりなどが重要です。
またレプチン分泌を低下させてしまう夜遅くの食事や睡眠不足などにも意識することが大事です。
レプチンの働きを活用して食欲や体重をコントロールしましょう!